物干し台に敬礼

 最初の子供が生まれておむつを干す物干しがいると20年近く前に買った物干し台が、とうとう昇天してしまった。上の子は珍しく紙おむつではなくて昔ながらの布おむつで育てていたので、それはそれは洗濯物は増えるばかり。新米の母親は一日洗濯に追われ、やっと量販店で手に入れた物干し台であったのだ。組み立て式で3段作りの新型、たくさんのおむつが風にたなびいていたのを覚えている。子どもの成長と共にまた四季折々に物干し台の風景は、変わっていった。保育園の時、家の中でかくれんぼをしていて、その物干し台に干してあったバスタオルの間に隠れていてなかなか見つけられず、あわてたことなども今は思い出である。
 でも4〜5年前から接合部の金具が壊れ始めて、ビニールテープを巻いて使っていた。しかしその接合部の壊れが全体に広がり、最近は全部の接合部に添え木をしてより頑丈なビニールテープで直してはいたが、とうとう先日、日中の強い風ですべての接合部が壊れてしまい、自立できなくなり倒れてしまったのである。洗濯物を抱え込んで倒れているその物干し台を見ていると、おむつを干していた20年前が思い出され「よく頑張ってくれた。」と言いながら、倒れていた物差し台を抱き起こす私であった。
 自分の人生もこうありたいとその時思ったのである。使命を全うしきった人生ほど素晴らしいものはないのだろう。「今までありがとう、もうゆっくり休んでください・・・」と言葉をかけながら修理に使った添え木やビニールテープをはずす自分は、少し感傷的になってしまったのである。家族と一緒に今まで頑張ってくれた物干し台に、敬礼したい気持ちになった。