投稿 終わった人

 映画「終わった人」を妻と鑑賞してきた。私はまさに主人公と同じ歳である。事前に映画は原作を読んでから見た方が良いとネットで知っていたので、急ぎ読了しての鑑賞だった。
 やはり私も原作の方が面白いと感じたのだが、映画では原作にはないシーンもあり、映画は映画で楽しめたのである。400ページ近いこの小説を2時間の映画に集約するのだから、脚本家もそれは苦労したであろう。そして原作ではあまり感じられなかった滑稽さが、この映画独特の雰囲気をさらに醸し出していたような気がするのだが、私は原作にある主人公の悩める心理をもう少し深く表現してもらいたかった。
 黒木瞳はまさに当たり役だと思うが、主人公は舘ひろしよりは役所広司で私は見たかった。でも妻が、夫の再出発時に髪を染めるシーンは原作にはないが、映画では見事に夫婦のそれぞれの気持ちが静かに表現されていて、大変印象に残っている。
「散る桜、残る桜も散る桜」と主人公が悲しげに話していたが、私は「終わる人、終わった人が始める人」とエンドタイトルを見ながら感じ、もう少し頑張ろうと思いながら妻と劇場を後にしたのだった・・・。

※ この文章は高知新聞6/29朝刊 読者欄に掲載されました。
https://www.kochinews.co.jp/article/195237/
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