熱帯夢・・・バス男・・・MAKE MY DAY・・・

 高知の街は8月9日から数日間よさこい祭り一色に染まってしまう。初日のその日、彼は盆帰りの旧友に誘われてビアガーデンで昔話に興じていた。自営業の彼は明日も仕事が入っていて9時過ぎにはめったに乗らない帰宅のバスに乗っていた。小刻みな振動が心地よい眠りを誘ってしまう。客は数人であったが自宅近くまでのバス停までは20分近くの距離であった。
  よさこい祭りも国際化が進み、最近は外国からの参加者や見物人が増え彼のような外国語が出来る人間は重宝されていたが、50歳も過ぎ後進にそれを譲り今では祭りとは言えども外部の人間になっていた。繁華街で客が大半降りて自分と少し若い婦人がバスに残った時、大声でそのバスを英語で止めようとする外国人グループが数人乗り込んできた。眠い彼は自分の下車する場所がまだ違うことを確認し、またうとうとしていた。しばらくしてぼんやりと何やら遠くで、英語で誰かをいじめている言葉が聞こえてくる。・・・・確かに英語で先ほどの外人グループが一人残ったバスの女性をからかっていたのである。彼は心地よくいい夢を見ていたがその騒ぎの声に起こされてしまって、機嫌が悪い。「その女性が嫌がっているじゃないですか兄さんたち、そんなことするもんじゃないですよ・・・」と何かのギャング映画のセリフのままをどすの利いた英語で言いいながら背広の内ポケットに手を入れ、最後にMAKE MY DAY と言ったらその男たちは次ぎの停留所で降りていった。酔った勢いで映画『ダーティーハリー」のクリントイーストウッドに成り切っていた。
  「ありがとうございます、おかげで助かりました・・・御名前を・・・」「名乗るくらいのものではありません・・」と言って彼は思わず次ぎのバス停で降りてしまった。バスの中からさっきの女性が何度も会釈していた。自分の停留所はまだ先だったが、ただカッコつけておりてしまったのだ。家まで少なくても歩いてあとかなりの道のりである。先ほどの事を思い出すと急に怖くなって震えが止まらなくなり、停留所のベンチに横になって眠ってしまった。「MAKE MY DAY・・か・・・」


 ・・・・・・「う・・・重い・・暑い・・なんだこの暑さと腹の重さは・・・」薄目の奥からまぶしい朝日に照らされた娘たちの顔がだんだん見えてきた。私を起こそうと私の体に押入れの布団全部を掛けていたのである。暑いし重い・・・テレビで見たような「電車男」ような出会いも役柄にも、世の中はそう簡単にはしてくれそうもないようだ・・・強烈な頭痛を伴った二日酔いが彼の翌朝を台無しにしていた。MAKE MY DAY ・・・俺の今日を返してくれ〜・・・


残暑お見舞い申し上げます。来週は夏休みでこのコラムはお休みです。次回は8月26日号の予定です。