現代版 藁しべ長者考

 私の友人で「藁しべ長者」の話を良くする人がいます。人との出会いやチャンスは大切にしていけば大きく広がるものだから・・・という考えからのようですが、現実社会では逆にその出会いを利用されたり、結果的にだまされたりするケースも少なくなく「藁しべ長者」の話はただのおとぎ話と思っていました。

   でもそれが本当になったという記事が出ておりました。赤いクリップひとつから1年かけて家に交換できたそうです。いささかメディアを意識した話のようにも感じられますが、逆にそれらメディアを利用すれば可能な話という事にもなります。


   みんながそんな善人ではないでしょうが、相手を思いやって身を挺して徳を積んでいけば良い事がある!という事でしょう。その記事のURLと藁しべ長者の話を載せておきます。改めて読み返してみると、現代人が忘れかけていた何かを思い出させてくれるような気がするお話ですね・・・皆さんはどう感じられますか?

    http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0607/10/news055.html



藁しべ長者(わらしべちょうじゃ)

 とんと昔あったと。
 ある所に、うだつが上がらない若い男がいたと。人はいいのだが、まるでお金とは縁がなくて、いつもひもじい思いをしていたと。
 あるとき、観音(かんのん)さまへの願かけを思い立ち、三・七・二十一日間の観音さま参りをしたと。そうすると、二十一日目に、
「この寺を出て、転んだとき、最初に手に触れたものを授けよう。それが出世のきっかけとなろう」という観音さまのお告げがあったと。
「転ばなければ、どうすればいいんだろう」と、男は変なことを考えながら、お寺を出ると、案の定、石につまずいて転んだと。
 地面に広げた男の手に、一本の藁しべが触れていたと。
「観音さまが授けるといっていたのは、これのことかな。しかし、こんな藁くず一本ぐらいで、どうなるんだろう」と思ったが、お告げ通りに、男はごみのような藁しべ一本を拾いあげて、歩き出したと。すると、トンボが道端の稲架(はさ)に止まっていたと。男はトンボをつかまえて、藁しべにトンボの尻尾を差し込んだと。
 そうして歩いていると、向こうから、小さな子供を連れた母親がやって来たと。虫のいどころが悪いのか、子供はぐずついていたと。母親は大きなハスの葉っぱであやしたりしていたが、子供はなかなか機嫌を直さなかったと。
 それを見た男は、子供の目の前に、トンボの藁しべをちらつかせて、子供の気持ちを引いてみたと。すると、途端に子供の機嫌が直ったと。
 男は、藁しべとトンボを子供にやったと。
「ありがとうございました。けれども、これといったお礼の品がありませんので、このハスの葉っぱを持って行ってください。雨のときには、傘の代わりぐらいはつとめます」と言って、母親はハスの葉っぱを男にくれたと。
 男がハスの葉っぱを手に歩いて行くと、本当に雨が降ってきたと。
「これは傘代わりに、もってこいだ」と、男が葉っぱを傘にしていると、向こうから、お婆さんが濡れながら、小走りにやって来たと。
「お婆さん、お婆さん、これにお入りなさい」と言って、葉っぱを差し出したと。
「それでは、あんたが濡れるよ」
「いや、濡れてもいいんですよ。これ、お婆さんにあげますよ」
「ありがとうよ。だけど、私にはお返しするものが何もない、困ったねぇ。そうだ、お味噌がある。ここにお味噌を持っているので、それとそのハスの葉っぱと取り替えることにしましょうか」
 というわけで、お婆さんのお味噌と傘代わりのハスの葉っぱとを取り替えたと。
 そのうちに、日が暮れてきたと。雨はあがったが、男は歩き続けたと。老婆(ろうば)と出会ったと。
「まぁ、そんなに濡(ぬ)れて、どこまで行きなさるのじゃ」
「どこといって、当てはないんです。泊まるところもないし、今夜は野宿でもしようかと考えていたところなんですよ」
「それならば、わしの家は貧しくて、何のもてなしもできないのじゃが、まあ泊まるぐらいは泊めてあげられるから、よかったら、来なさい」
 ということで、男は近くの老婆の家に泊めてもらうことになったと。老婆は、
「うちには、お米がないから、これで我慢しなさいよ」と、粟(あわ)を炊いてくれたと。
「粟は炊けたが、おかずが何もなくてねぇ」と、老婆が言うので、男は、
「おかずなら、ここにお味噌がありますよ。これで食べませんか」と言って、粟のご飯に、お味噌のおかずで食べたと。
 朝になって、男が、
「泊めていただいたお礼に、お味噌は全部あげます」と言うと、老婆は、
「じゃ、うちには昔、お爺さんが使っていた剃刀(かみそり)が一つ、残っているので、それをあんたにあげましょうね」と言って、味噌のお礼に、剃刀をくれたと。
 男は剃刀を持って、てくてく、歩いたと。すると、川があって、一人の年取った侍(さむらい)が、魚釣りをしていたと。男は、退屈まぎれに、釣りでも見ていこうかと、足を止めたと。
「どうです、釣れますか」と尋(たず)ねると、侍は、「いや、釣れないねぇ」と顔を向けたと。その顔は、髪ぼうぼう、ひげぼうぼうだったと。あまりの無精ひげに、男はあきれてしまい、侍に聞いてみたと。
「お侍さん、失礼ですが、そのひげは、何か訳があって、のばしているんですか」
「このひげか、訳はないさ。ただ、剃る小刀がないだけだ。この刀では、ひげ剃りには大きすぎるでな」と言って、侍は腰の刀を指して、笑ったと。
「それなら、お侍さん、この剃刀を使ってくださいよ」と言って、男は剃刀を出したと。「どれどれ」と、侍は川の水を顔につけ、剃刀でひげを剃ってみたと。
「なかなかよく切れる。いい剃刀だ」
「それなら、あげますよ」と、男は気前よく言ったと。
「わしは浪々の身で、お金はないが、そうじゃ、わしはもう侍稼業はやめようと思っていたところじゃ。この刀をやろう。侍をやめるとなれば、こんな刀は持っていても仕方がないし、だいいち、これでは大きすぎて、ひげ剃りにも向かないじゃないか。お前にやるよ」と侍は、これまた気前よく、刀を男にくれたと。
 男は刀を持って、歩いて行くと、向こうから、
「下にい、下にい」と、殿さまの行列が来たと。
 道行く人たちは、みんな、地面に坐り、頭をさげて、行列を迎えたと。男も刀を自分の前に置いて、おじぎをしていたと。
 殿さまの馬が、丁度(ちょうど)男の前まで来たとき、殿さまは男の刀に目を止めたと。
「その刀を見たい」と言ったので、家来が男の刀を取り、殿さまに差し出したと。
 殿さまは、ためつすがめつ、刀を見て、
「いい刀だ。こういういい刀を持っている者は、きっと、いい働きをするにちがいない、お前が望むならば、家来にしてやってもよい」と言ったと。
 男は、今すぐこれといって、することもなかったので、殿さまの言葉を受けて、家来にしてもらったと。
 一本の藁しべがきっかけで、男は出世の糸口をつかんだわけだね。
 昔こっぽり、てんぽろり