言霊

 新聞の記事で仕事が終わって自宅に帰ったとき「今日は疲れた・・・」と言うよりも、「今日は良く頑張った!」といったほうが、言う方も聞く方も気持ちが明るくなると、またある営業マンの上司が新入社員に営業のコツを教える上で、「今日は新規顧客1件は取ってくるように・・・」と言うよりも、「今日は新規のお客さんに100件断られてこよう!」といった方が、部下の業績ははるかに良かった、と書いてあった。言葉一つで人間はどのようにも変われるようである。
 期末試験の結果が分かってきた。元気な男子には多少荒っぽい言葉遣いで褒めたり叱咤激励するが、女子や少し気の弱い生徒には、決してきつい言葉では話さない。相手の反応にあわせながら、生徒の声を聞くのである。そんな生徒の成績が良い時は、大げさに褒めるとかえってふさぎこんでしまうこともあるので、難しい。でも25年もやっているとあった瞬間にほぼそれらの生徒の性格は、把握できるようにはなってきた。また私はほとんどの保護者と直接週に1度は連絡を取り合っているので、保護者の方も私の性格や考え方を良く分かってくれているのが、うれしいのである。
 それは私のマメさにある、と言われた事がある。やはり子どもを塾に預ける親は、塾の先生の信頼度が一番重要であるからだろう。その信頼を一番得やすいのは保護者懇談会をすることです!と先輩塾長から習ったことがある。確かに直接保護者に会って相手の話を聞きながら、預かっている生徒の話をすることは塾長を保護者にアッピールできるいいチャンスだとは思うが、逆の効果も考えるべきではないだろうか。弁の立つ親に自分の意見を否定されコテンパンに打ちのめされて、塾の講師を辞めたなんて話を聞いた事がある。またある学校の先生が「私はこの歳で独身で、子育ての経験はなく保護者の方がその点では先生ですから、よろしくお願いします・・・」と1学期の担任挨拶で言うから、「あなたは独身であろうがなかろうが、私たちの大切な子ども達をこれから1年間預からなければならない、大切な仕事をされる子ども達の先生ですから、どうかそんな事は私らの前では言わないで、先生として何事も自信を持ってやっていただきたいのです。経験なんかなくても分かれば出来ることは多くあります。端的な例として、産婦人科の男の先生は多分お産の経験はないでしょうが、赤ちゃんを産む女性の方はその先生を信じて、お産しますよね、お産の経験がない男の先生でもお産が分かっているから出来るのです。先生も子どもが分かれば十分指導は出来ますから、お願いします!」と話た事がある。1年間終わってその先生が「お父さんのあの言葉で、私の子育てがないコンプレックスが消えました。ありがとうございました。」と言ってもらった。
 人間ってそんな物なのです。立場が人を作るというかその世界で一生懸命に頑張っていれば、自信が付きいつか必ず道は開けてきます。それは当人の素直で謙虚な心からの確信に満ちた言葉(言霊)が、呼び寄せるのです。