地中海とバトラーそしてフレンチフルコース

 見知らぬ人に「あなたは選ばれた人になりました。」と薄暗い部屋で鍵を渡され、恐る恐るその鍵を目の前にあるドアの鍵穴に入れて開けたら、部屋の向こうの窓越しに真っ青な海と、白い壁の建物がまぶしく眼前に現れた。あれ?と思って振り向いたがさっきまでいた薄暗い部屋はなく、三方の窓に映画や旅行パンフレットで見るような地中海が光っていた。夢だろう・・・と思いそれなら覚めるまで見続けようと部屋を出ると、外人のボーイが挨拶をしてくる。なんと日本語を話しているのだ、そんなはずがない!ここは地中海の見えるギリシャかイタリアではないのか、と思いながら豪華な宮殿のような建物の一階に降りると、食事が用意されていると黒服のバトラーのような人に、その建物のダイニング室に案内された。
 Mr.OGASAWARAと書いてある席があり、そこに座っているとフレンチのフルコースディナー(午餐)が運ばれてきた。前菜から始まりスープそして魚料理に肉料理と続き、フランスパンにデザートそしてコーヒーで終了したのである。一品ずつはほんとに少量だがゆっくり食べるからであろうか、コーヒーをいただく頃にはお腹いっぱいになるのが、フルコースのフランス料理である。一度こんなリッチな雰囲気でこんな料理を食べてみたかったのだ。そして今まで食べたことがないくらい、とんでもなく旨かった。おなかが張り少し眠くなったので、先ほどの部屋に帰り少し仮眠をする。
 何時間横になったのだろう、部屋には時計がないので廊下に出ると先ほどの日本語を話すボーイがいて、また一階に降りろというのだ。そして一階に降りると黒服のバトラーがまたいて食事だという。さっき食べたのだけど・・・と思いながらダイニング室に連れていかれると、Mr.OGASAWARAという席がまたあった。するとさっきと全く同じのフレンチのフルコース料理が出てくるのだ。もう食べられない・・・と言って断るが通じないのか料理は次々と出てきてまた魚、肉の料理が運ばれてくる。もう食えないからとナイフとフォークをおくと新しい料理にナイフとフォークが載ってまた出てくる始末。先ほどまで笑顔だったバトラーが、残しでもしたら承知しない!ような怖い顔で私をにらむのである。何やら怖くなってきた。何とか吐きそうになりながらでも全部平らげた私であったが、今回は全くおいしいとは思わなかった。そしたらバトラーが請求書を持ってきたのである、料理代金50,000円、しかし完食されたので0円と書いてあった。
 ひょっとして明日も明後日も同じフルコースが出てきて、毎回完食しなければ50,000円支払わなければならないのだろうか・・・先ほどのフレンチ料理を吐きそうになりながら、0円の請求書を見ていた。毎日が地中海のフレンチフルコース地獄・・・
 脂汗が出て目が覚めた、その後かみさんの作ってくれた箸で食べるみそ汁と、焼き魚とご飯の朝飯がとてもうまかった。昼間はかけうどんにしよう、夜は焼肉か、地中海もフレンチフルコース料理も、夢でも見るのが嫌になった私である。