塾の坪売り上げ

 連休中県外で友人がやっている飲食店に行き、久しぶりに閉店後一献を交わした。歳は違うがやはり厳しい飲食業で生き抜いてきただけあって、経営に対する考えはさすがだと思った。私の塾の話もしたらその彼がふと「俺が将来やってみたい店の形をやっている・・・。」と言われたのである。彼は今、20坪のほどの駅に近いテナントで経営しているが、ここでも人手不足は深刻で時給がこの数年で1.3倍になったそうである。一番最初は自分で作り奥さんが接客をして7坪くらいの店で商売をはじめ、とにかく昼間も定食を作り店先では一味違った持ち帰りのお弁当を当初は売り始めたとかで、コンビニがそんなになかった時代で、けっこう繁盛したそうだ。夜は居酒屋で深夜まで頑張って、それを大きくして今の店になったのである。同じ地区で30年やってきたのが良かったと思うとの事だが、彼も人を使う難しさをずっと感じているようで、今は店長を任せている共同経営者に将来は譲り、私がやっているような自分一人の小さな店を、好きなようにやってみたいとも話していた。私はこの仕事を始めた時から、多くの人を使ってやる商売ではないとわかっていたから、今と同じような形態で前からずっと続けている。彼は大きくしてみて人生の経験を積んで、その境地に達したのだろう。
 飲食店では、その店が流行っているかどうかのバロメーターとしての、坪売り上げというのが基準になっているようである。彼の話だと坪20万以上なら十分採算が取れて流行っている店だそうである。彼の店は20坪だというから月商400万円以上という事か?月30日として一日当たり売り上げが・・・なんて野暮なことは聞かなかったが、粗利が四割としてもテナント料を引いて人件費光熱費など差し引いても、オーナーの取り分(収入)はそこそこのものだと思うが、彼も少し人を使う仕事に疲れてきたようだ。
 彼の言う坪売り上げを塾に置き替えて考えていた。塾はとても広いところもあるが大体10〜20坪のテナントを借りているところが多いが、坪売り上げ20万は塾の売り上げではたぶん無理だろうから、10万円以上なら採算の取れている健全経営の塾と言えるのかもしれない。また塾の場合自宅が教室だったり、私のように塾長一人が全部やっているような塾ではまたまた条件が違うので、飲食店のような考えは成り立たないかもしれないが、やはり混んでいるラーメン屋がうまいように、通うならある程度生徒がいる塾の方が間違いがないだろうし、通り一辺倒でも坪売り上げが多い塾が流行っている「良い塾」と言えるのかもしれない。また多い生徒を抱えて講師をたくさん雇い、多教室化して売り上げが多くあれば、経営的にはすごい塾という事になるかもしれないが、塾は通ってくれる生徒たちのためになる事が第一で、ここが飲食業界とは違うところだろう事は周知の事である。
 しかし、営利を目標とした株式会社組織の塾は多く他教室展開している塾などは、それぞれの教室長に進学実績と同じように、坪売り上げのような売り上げノルマが課せられている事だろう。会社に立派な授業をしていても赤字で褒められるわけはないのだ。でも私は生徒として預かった以上、その生徒の今だけの事ではなくて将来的な事もじっくり私自身が考えた直接指導を保護者や生徒に心掛けているから、この考えが既存の塾とは全く違うところであり、私自ら直接指導できて全員に目の届く、責任ある小さな塾であり続ける私の塾たる所以なのである。若者の人生をも変えるかもしれない塾業には、飲食業界の坪売り上げの考え方は私のポリシーには、全くなじまない事が分かったのであった。
 あなたの塾の塾長は教えること以上に、採算や経費節減や生徒募集で大きなノルマに日夜苦しんでいるかもしれませんね、そんな方にあなたや大切なお子さんの人生をゆだねられますか・・・。